海外コラム

移転価格税制①

企業の脱税や申告漏れのニュースが新聞紙面をにぎわせることがたびたびあります。企業の業種、規模、金額、脱税、申告漏れ等様々ですが、その中でもとりわけ目立つものがあります。日本を代表するような企業について、数十億円、数百億円単位の申告漏れがあったというような場合です。これらはほぼ全て、海外子会社との取引に関し企業と税務当局との間で見解の相違があった、と報じられています。もう少し詳しい記事だと移転価格税制が適用されたことが記載されています。
では、このような巨額な申告漏れの原因となる移転価格税制とはどのような制度なのでしょうか。

移転価格税制とは、日本の会社と海外のグループ会社との間で行われた取引に関して適用される法人税の制度です(正しくは租税特別措置法の法人税編)。
グループ内取引であれば、価格等の取引条件について、第三者との取引に比べてある程度自由に設定できます。よって、企業が海外のグループ企業向け取引価格(移転価格)を通常の取引価格とは異なる金額に設定すれば、一方の利益を他方に移転することが可能となります。国内外の税率差を利用し、税率が低い国に利益を偏らせることでグループ全体の税負担を下げることができてしまいます。たとえば、日本の法人実効税率は約30%ですが、ベトナムは20%です(しかも優遇税制が適用されればもっと低税率になる)。日本の親会社が製造した製品をベトナムの販売子会社に輸出し、ベトナム販売子会社が現地で当該製品を販売する場合を考えます。この場合、日本親会社からベトナム子会社へはほとんど利益を乗せない取引価格で販売し、安い価格で仕入れることができたベトナム販売子会社は現地で多くの利益を上乗せして顧客に販売したとします。双方の利益を見てみると、日本親会社にはほとんど利益が残らない一方で、ベトナム販売子会社には多額の利益が計上されることになります。グループ内ではベトナム側に偏った利益配分となっています。税金に目を向けると、多額の利益が生じるベトナムでは多くの税金を支払うことになる一方で、日本側ではほとんど税金がかからないことになります。日本の税務当局から見ると、通常ではない価格設定で取引が行われたために日本の税収が減ってしまったことになります(逆にベトナムの税務当局は特に問題視しない)。

移転価格税制は、このような海外のグループ企業との間の取引を通じた所得の海外移転を防止するための制度です。海外のグループ企業との取引が通常の取引価格ではない価格で行われることで、結果として日本の税収が減少することとなる場合に、通常の取引価格に引き直して所得を計算し課税する制度です。では通常の取引価格って何だ、という話になります。税法上では、通常の取引価格とは第三者間できちんと交渉したうえで決まる取引価格である、と考えます。税法上の専門用語では独立企業間価格と呼びます。
とはいえ、グループ企業に販売する製品について、同じ製品を第三者にも販売していれば「第三者間できちんと交渉したうえで決まるような取引価格」は存在するのですが、かならずしも第三者と同様の取引を行っているとは限りません。そこで税法では、独立企業間価格についての算定方法が定められています。この算定方法に従って算定していれば、税法上は正しい独立企業間価格です、ということになるわけです。
もしも実際の取引価格と税法上の適正価格とされる独立企業間価格に差があり、かつそのことによって日本の利益が減少している場合には、日本の税務当局から申告漏れであるという指摘をうけることになります。この場合、逆に利益が増加した外国側では税務当局から指摘を受けることはありません。このため、同じ利益に対して日本でも外国でも税金が課せられるという二重課税の状態が生じてしまうのです。

グループ企業との取引が単発的なものであれば、この二重課税も少額で済むことになります。しかし例えば、外国に生産機能を移転し、海外の製造子会社から製品を恒常的に仕入れているといったような場合には、年間を通じて海外グループ企業と同取引を行うことになるわけです。そのため、もし移転価格税制の指摘を受けた場合には、二重課税の金額が巨額なものとなってしまうのです。しかもこれを解消するためには、日本の税務当局だけではなく海外の税務当局も巻き込む必要があります。このため、解決までには年単位での期間を要し、対応のための会社の事務負担も相当なものになります。これが移転価格税制の怖さです。

 

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