海外コラム

移転価格税制②

移転価格税制は、日本企業が海外グループ企業との間で行われた取引については税金計算上は独立企業間価格で行ったとみなして所得を算定してください、という制度です。独立企業間価格とは税法上の用語で、第三者間できちんと交渉したうえで決まる取引価格という意味です。グループ内の取引では自由に取引価格を決めることができるため独立企業間価格とは異なる価格で取引することが可能です。このため取引を通じてグループ内の利益配分を自由にコントロールできてしまい、その結果日本の税収が減少してしまうことがあります。これを防止するのが移転価格税制の趣旨です。

また税務調査により移転価格税制上の指摘を受け更正処分を受けた場合には、相手先国との間で二重課税が生じてしまいます。調査対応や二重課税を解消するための対応には相当な時間や事務手間を要します。これを防ぐためには、申告書作成の際には独立企業間価格に引き直して別表調整する、あるいは取引を予め独立企業間価格で行っておくことが必要です。いずれの方法をとるにしても、独立企業間価格を予め算定しておく必要があります。もっとも、オリジナリティ溢れる方法で算定しても税務当局から認めてはもらえません。税法上に規定された算定方法を用いる必要があります(この記事内では算定方法の詳細にまでは踏み込みません)。

さらに税法は、海外グループ企業との取引を一定の規模以上行った場合には、税務調査で独立企業間価格の説明を求められた場合にすぐに出せるように「独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類」の作成・保管を義務付けています。一般には「移転価格文書」とか「移転価格文書作成義務」と言われているものです。この文書は、単にグループ間取引の価格算定方法だけを書けばいいというものではありません。なぜそのような価格設定にしたのか、それが独立企業間価格といえるのか、といったことの説明の記載が求められています。より具体的に言えば、対象取引が置かれているマーケットの状況、取引を行った日本企業と海外グループ企業の関係、どちらがどのような機能を果たしリスクを負担しているのか、といったことを詳細に分析して記載する必要があります。要は企業の置かれた状況及びそのグループ内における役割分担・リスク分担に応じた利益配分となるような価格設定となっていることの証明を、企業が自ら文書で明らかにする必要があるということです。

もっとも、文書を作ったからと言ってその内容が正しくなければ税務調査上で指摘を受け更正処分される可能性はなお残っているわけであり、それゆえしっかりとした分析及び文書の作成が求められます。このため、文書を作成するだけでも企業の事務負担は大きなものとなります。
もし企業が文書を作成しておらず、税務調査において提出要請に対応できなかった場合には、税務当局側に推定課税の権限や同業種に対する質問検査の権限を与えてしまうことになります。これは、税務当局が独自に独立企業間価格を算定し課税処分を行うことが認められるということです。

企業のグローバル化が進展した現在では、移転価格税制が非常に注目度の高い論点の一つになっています。しかもこれは日本に特有の制度ではありません。世界各国にも同様の制度があります。このため、日本では指摘を受けなくとも相手先国で指摘を受ける可能性もあります。一方の国に多額の利益を配分した場合、その国では指摘を受けるリスクは減らせますが、相手先の国ではリスクが高まってしまうという難しさがあります。またどの国も基本的には同じ考えに基づく制度設計となってはいますが、行政の執行レベルは国によって大きく異なります。先進国の税務当局に対しては通じる理屈も、新興国相手では必ずしも通じるとは限りません。国と国との税収の奪い合いであり、二重課税となった場合の解決も簡単なものではありません。このため、大企業にとっても対応が難しいのが移転価格税制です。

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