会社の従業員を海外勤務させる場合には、その従業員の給与に対する所得税はどのようになるでしょうか。
税法上の「居住者」に該当する場合と「非居住者」に該当する場合では、課税の範囲は異なります。
以下の表は日本の所得税法上に基づきます。居住者の方が非居住者よりも課税範囲が広くなっています。
国内源泉所得 (日本で生じた所得) |
国外源泉所得 (国外で生じた所得) |
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居住者 | 課税対象 | 課税対象 |
非居住者 | 課税対象ではない | 課税対象 |
では税法上の「居住者」「非居住者」とは?
日本の所得税法によれば、「居住者」とは、国内に「住所」を有し、又は、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人をいいます。「住所」は「個人の生活の本拠」です。つまり、その人の生活の中心がどこにあるかで判定されます。
では例えば、もともとは外国に住んでいて外国に家も保有しているけれど今は仕事の都合で日本に数年間住んでいる、ただし休みが取れるたびに外国に帰省しているという人がいるとします。この人の「生活の本拠」はどこでしょうか。心が安らぐのは母国だからそこが生活の本拠であり日本の「居住者」には該当しないと主張した場合、認められるでしょうか?もっと極端に言えば、パリが大好きな日本人が「私の心のホームタウンはパリなので、私は日本の「居住者」には該当しません」という主張は認められるでしょうか。
個々人のそういう主張を認めてしまうと課税の公平性が失われますし、そもそも個々人の心の中まで見て判定することは不可能です。よって「生活の本拠」かどうかは「客観的事実」によって判定されることになります。例えば、日本において継続して1年以上勤務するような職業に就いている者(典型的には会社員)は、税法上は国籍にかかわらず日本の居住者となります。
逆に、1年以上の予定で海外勤務する従業員は、日本人であっても税法上は「居住者」とはなりません。税法では「居住者」以外の個人を「非居住者」と規定していますので、海外勤務従業員は「非居住者」となります。
したがって、海外勤務従業員については、国内源泉所得(=日本国内において行う勤務に基づき生じた所得等)がない限りは、日本で所得税を納める必要はありません。海外勤務分に基づいて支払われる給与であれば、勤務先の海外子会社等から支払われる場合でも日本の会社から支払われる場合でもです。
以上はあくまでも日本の所得税法上の考え方です。海外勤務の際には現地の税法に従う必要があります。とはいえ、国が変わっても基本的な考え方は類似していることも多いです。よって海外に問い合わせる際には、上記の考え方を理解しておけばスムーズに話ができるかもしれません。