これまでの記事でも何度か触れた通り、居住者の場合には全世界所得課税となります。つまり居住者(非永住者を除く)は、所得が生じた場所が国の内外を問わず、そのすべての所得についてわが国において所得税を納める義務があります。
ただし、1年の間に居住地を数か国にわたって転々と移動する、いわゆる「永遠の旅人(パーマネント・トラベラー)」の場合には、例えば日本と外国の双方の居住者となることがあります。というのも、その国の居住者となるかどうかは、各国の法令によって決まることになるからです。
ではこの場合には、両国において居住者として納税しなければならないのでしょうか。その場合には二重課税が生じてしまいます。もし外国税額控除を適用できたとしても、控除限度額を超える場合には二重課税は残ってしまいますし、何よりも手間がかかります。
こういう場合には租税条約の適用により解決を試みます。租税条約には、日本でも外国でも居住者と判定される場合に備えて居住者の判定方法が定められています。これにより、どちらか一方の国の居住者となるように振り分けられることになります。なお必要に応じ、両国当局による相互協議を通じて決定されることもあります。
この振り分けは、日本ではあまり問題となることはありませんが、たとえばEUなどでは普段はスペインで生活しながら勤務先はポルトガルである場合などのようなケースで重要となってきます。
そして振り分けられた後には、もし相手国の居住者とみなされる場合には、日本では非居住者として申告することになります。その結果、日本での課税範囲は全世界所得ではなく国内源泉所得に限定されることになります。