海外コラム

グーグル日本法人に対する課税について 1/2

昨日の日経新聞に「グーグル日本法人、申告漏れ35億円 所得を海外移転」という記事が掲載されていました。米インターネット検索大手企業のグーグルの日本子会社とシンガポール子会社との間の取引が問題となったようです。

記事からは詳細な課税内容や事実関係がよくわかりませんでしたが、移転価格税制の問題として処理されたものと思われます。取引はおそらくこういうものだったと推測されます。(なおこれより簡便的にグーグル日本法人を「グーグルJP」、グーグルシンガポール法人を「グーグルSG」とそれぞれ呼ぶことにします)

  • グーグルSGは広告事業を行っているが、その業務の一部(?)をグーグルJPに業務委託している
  • グーグルSGは業務委託の対価(つまり報酬のこと)をグーグルJPに支払っている
  • 対価の金額は、グーグルJPがその業務に要した費用+マークアップ8%。つまりグーグルJPが当該業務を行うことで得られる利益は8%部分

東京国税局はグーグルJPが当該業務を行うことで得られる8%の利益が過少であり、業務の内容からすればグーグルJPは追加で35億円の利益を得るべきだと考えて課税処分を行ったようです。

ここでシンガポール側に目を向けてみます。グーグルSGが対価としてグーグルJPに支払った金額は、「グーグルJPが要したコスト+8%マークアップ」です。ただし今回の件で日本側では、グーグルJPはさらに35億円の対価は追加的に得るべきだったという処分が下されています。これにより日本側では35億円が益金として追加されました(その結果日本側の税金が増えます)。シンガポール側に目を向けてみると、ではグーグルSGは35億円を追加的にグーグルJPに支払ったこととして損金にしましょう(その結果シンガポール側の税金が減ります)となるはすです。

ところがそうはいきません。シンガポールの税務当局としては、日本の税務当局の見解をそのまま受け入れてしまうと、自国の税収が減ってしまうわけです。このため、今回の日本側の処理を受けて自動的にシンガポール側で損金とすることは認められません。日本側で課税処分の対象となった35億円については、シンガポールでは損金として認められず、結果として二重課税の状態になってしまうわけです。

なお二重課税の解消のために、国家間で協議してもらい解決を図るための制度(相互協議)が用意されています。ただし必ずしもスムーズな解決を期待できるものではありません。一方の課税を認めれば他方は税収が減るという国家間の利害関係が対立する話ですし、相互協議の開催頻度も年に2~5回程度であり、一回の開催時に複数事案の話し合いが詰め込まれることから、自社の事案を協議のテーブルに乗せるためには順番待ちとなり、それなりの期間を要します。最終的な解決までには2~3年を要することが多いです。会社側としては、当局(日本当局および相手国当局の双方)からの要請の都度、資料を作成する等の対応が必要となり、少なからぬ事務負担が発生することが通常です。

なお、事前に税務当局にお墨付きをもらうことで、今回のような税務調査を予防するための制度もあります。つまり、企業グループ内の取引価格をこう設定したいという納税者側の意向を予め税務当局に説明しておき、税務当局としては審査の上それを認めるというものです(事前確認制度といいます)。

移転価格の制度についてはまた別途掲載する予定ですが、本件から注意しなければいけないことは以下の通りです。

  • 企業グループ内の取引であっても税金計算上は対価の授受が必要。そしてその金額は適正に算定されたものでなければならない
  • 移転価格の問題として課税されると、取引相手所在地国との間で二重課税が発生する
  • 二重課税の解決は容易ではない
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